イージス艦衝突事件


19日午前4時7分ごろ、千葉県・野島崎の南南西約40キロの太平洋で、海上自衛隊第3護衛隊群所属の最新鋭イージス護衛艦「あたご」が、マグロ漁に向かっていた勝浦市の新勝浦市漁業協同組合所属の漁船「清徳丸」と衝突した。

 清徳丸は船体が2つに割れ、乗っていた吉清(きちせい)治夫さん(58)と息子の哲大(てつひろ)さん(23)の2人が行方不明になり、第3管区海上保安本部(横浜)や僚船などが捜索している。



 無残にも真っ二つになった漁船を見るとFRP製の漁船の弱さと、事故のすさまじさを思い知らされる。たかだか7.3トンのFRP製の漁船が7750トンの最新鋭の鉄船とぶつかったのだからひとたまりもない。


 しかし、海難事故というのは多いように思うがルールを守っていれば起こるはずのないものなのである。今回も朝4時07分というから夜明け前の真っ暗な太平洋上の事故であるが荒れた海上ではなく視界も良かったという。進行方向に対して右手に船が見えた場合は相手が優先艇となる。イージス護衛艦「あたご」の損傷は右舷前方10度の位置にあるということは、「あたご」に回避義務があったということだ。夜中の海上は真っ暗だから、船の灯火により相手の船舶を識別しなければならないが、それが出来なかったか、しなかった。


 日の丸の付いた大きな船に乗っていると、漁船のような小さい船が回避してくれるだろうと「大船に乗った気分」になるのはわかるが、ルールを守らなければ事故になる。艦橋に10人程度の乗組員が目視などで洋上を監視を行っているというから見逃す事はないだろう。誰かの大船に乗った判断が間違っていたのだろう。


 「イージス」は、ギリシャ神話の主神ゼウスが女神のアテネに授けた盾と伝えられるそうである。盾を信じて国を守ろうとする目的が、善良な漁民の乗る船を真っ二つに切り裂き尊い命を行方不明にしているのは矛(凶器)でしかない。改めて、中国の『韓非子』の故事「矛盾」という言葉をかみしめるのである。